海外渡航時には、以下のような「危機」(以下、リスク)」があります。渡航する国や地域、あるいは都市部か農村部かなどによって、リスクの内容や程度は異なりますが、自分が渡航する国や地域にはどのようなリスクが存在するのかについて、渡航前に情報を収集し、理解しておくことは、海外渡航時のリスクを回避するための第一歩です。
①犯罪被害
一般的に海外旅行者が渡航時に遭遇するリスクの中でもっともその確率が高いのは、次のような犯罪に巻き込まれることです。
・窃盗(スリ・置き引き・空き巣 など)
・詐欺(ガイド・写真撮影・両替・買い物・宝石・ギャンブル など)
・凶悪犯罪(殺人・性犯罪・暴行・強盗・脅迫・通り魔 など)
凶悪犯罪に巻き込まれることは、実際のところ確率的にはたいへん低いのですが、万が一にでもその当事者となってしまうことは、取り返しの付かない事態を招きます。幸いにも宇大生が海外で凶悪犯罪に巻き込まれた例はありませんが、他大学の学生が殺人事件などの被害者となった事案は少なくありません。たとえば、近年では次のような事案があります。
・ルーマニアのブカレスト郊外でインターンに参加予定の女子学生が殺害(2012年)
・トルコの有名観光地を旅行中だった女子学生2名が暴漢に襲われ死傷(2013年)
・フランス留学中で行方不明の女子学生がその後に殺害されていたことが判明(2016年)
・世界一週旅行中の男子学生がコロンビアで強盗に銃撃されて死亡(2016年)
また、留学中の女子学生が現地に駐在する日本人から性犯罪やセクハラなどの性被害を受ける事案も増えていることが報告されています(以下を参照)。
<参考ウェブサイト>
信藤敦子「日本人留学生の性被害 加害者は駐在員 見知らぬ土地で何が…」(NHK NEWS WEB、2022年2月17日)
海外に渡航する宇大生がこれまでに遭遇してきた犯罪被害の大半はスリや置き引きなどの窃盗ですが、本人の油断や不注意に起因する事案も少なくありませんので、日本とは治安や犯罪の事情が異なる海外では十分な注意が必要です。
外務省では、こうした日本人観光客を狙った犯罪被害を防止するための啓発ビデオ(以下を参照)を公開していますので、渡航前の閲覧を推奨します。
<参考ウェブサイト>
※外務省の「海外安全劇場」にはその他にも関連する啓発ビデオが公開されている。
②新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延が終息しない中で海外に渡航する際には、渡航先の政府等の感染対策に従うことが大前提です。しかしながら、海外での感染対策は日本のそれよりも規制が緩い場合が多く、海外に渡航した宇大生がCOVID-19に感染する事案も発生しています。したがって、海外に渡航し、短期長期を問わずに現地に滞在する場合でも、うがいや手洗いなどの基本的な感染症対策を怠らないことが重要です。
宇都宮大学のCOVID-19への対応方針については、以下のウェブサイトを随時確認して下さい。
<参考ウェブサイト>
留学生・国際交流センター「学生の海外渡航・一時帰国について」
③その他の感染症
さらに、海外での感染症はCOVID-19だけではなく、次のような感染症があることを理解しておくことが大切です。
<感染症の例>
・麻疹(はしか) ・風疹 ・ポリオ ・肝炎(A型・B型) ・結核 ・コレラ ・赤痢
・狂犬病 ・破傷風 ・マラリア ・黄熱 ・デング熱 ・日本脳炎 ・中東呼吸器症候群(MERS)
・新型インフルエンザ ・ジカ熱 ・サル痘 ・性感染症(STIまたはSTD) ・HIV/AIDS など
これらの感染症の中には、狂犬病や破傷風のように発症するとCOVID-19よりも致死率がはるかに高いものもあり、渡航先の最新の感染状況や現地の医療事情を確認して、渡航までに必要なワクチンを接種しておくようにしてください。とくにアフリカ諸国の中には入国時に「イエローカード」と呼ばれる黄熱ワクチンの接種証明書の提示を求める国があります。しかし、黄熱ワクチンを接種できる医療機関等は国内では限られていますので、事前に計画的な接種が必要となります。
なお、交換留学では受入大学からワクチン接種の証明書の提出を求められることがあります。また、大学主催の語学研修やインターンシップなどに参加する場合も含めて、保健管理センターでの事前面談を受け、自分のワクチン接種の履歴や免疫の有無などを必ず確認して、必要なワクチンを接種してください。
さらに、これら感染症の中には、街中などでみかける小動物(犬・猫・サル・リス・アライグマ・コウモリ・家禽類など)を媒介とした動物由来のものも少なくありませんので、不用意にに、また興味本位で小動物に触れることも回避してください。
<参考ウェブサイト>
④ドラッグ(麻薬・覚醒剤・違法薬物など)
日本ではもちろん海外でもドラッグ(麻薬や覚醒剤など)の利用や所持は法律違反となります。しかし、日本とは異なり、国によっては、死刑や無期懲役などの厳罰に処されることを肝に銘じて下さい。海外では日本人観光客を狙った薬物犯罪が横行しており、また、興味本位でドラッグに手を出してしまう日本人も少なくありません。
なお、海外では、大麻(マリファナ)が合法化されている国や州があります。しかし、合法化されてるとは言え、いくつかの条件や規制が定められている場合があり、これらに違反すれ罪に問われます。また、海外で日本人が大麻を使用した場合でも、日本の法律が適用されて、罪に問われる場合があります。
いずれにしても、国内外を問わずドラッグには絶対に関わらないでください。
<参考ウェブサイト>
外務省「海外安全ホームページ:海外における薬物犯罪・違法薬物の利用・所持・運搬」
⑤違法ギャンブル(違法賭博)
上記1)の「犯罪被害」とも関連しますが、日本人観光客が違法ギャンブル(違法賭博)の被害者になる事案を外務省は報告しています。犯罪者は日本人ターゲットに接近するための口実や機会をつくって親しくなり、自宅(実は犯罪者のアジト)へ食事に招き、トランプの賭け事に誘って、大金を詐取するというのがその典型例です。
そんなことに巻き込まれるはずがないと誰もが思いますが、プロの犯罪集団は日本人観光客のちょっとした気の緩みや好奇心を巧妙に狙ってくるのです。とくに個人旅行で海外に渡航する場合、あるいは、交換留学や語学研修等の場合でも、休日や自由時間に観光地や繁華街などを訪れる際には、こうした犯罪に巻き込まれないように注意が必要です。
⑥交通事故
海外で車やバイクなどを運転する場合(たとえば、海外でレンタカーやレンタバイクなどを利用する場合)は、交通事故に巻き込まれる危険性が日本よりもはるかに高くなります。以下のように、日本とは交通規則や交通事情が大きく異なる場合が少なくない点に十分に注意して、交通事故を回避してください。
・日本の交通規則との相違
・不慣れな左ハンドルや右側通行
・交通規則の未確立や不徹底
・信号機の故障や横断歩道等の未整備
・劣悪な道路状態(陥没や路肩崩壊など)
また、自分が運転するのではなく、トラックの荷台やバスの屋根などに乗車するように勧められても、そうした危険な乗り方は絶対にしないようにしてください。街路灯のない暗い夜道をバイクで走ることも、思わぬ大事故を招くことがあります。
⑦政情不安(選挙運動・デモ・ストライキ・暴動・内戦・クーデターなど)
内戦状態にある国やクーデターが発生した国へは、外務省が渡航禁止や渡航延期を勧告しますが、国によっては、滞在中にそうした事態が起こらないとも限りません。もし、そのような事態になった場合には、大学等の指示に従って、一日も早くその国から出国する必要があります。
しかし、より遭遇する可能性が高い政情不安といえば、それは選挙運動のほか、労働者などによるデモやストライキなどでしょう。いずれに場合にでも、不測の事態(当事者間の衝突や乱闘など)を避けるために、そうした現場には絶対に近づかないようにして下さい。
なお、国によっては、「赤」や「黄」といった政党のシンボルカラーが決まっている場合があり、対立候補のシンボルカラーのTシャツを着ていたというだけで、トラブルになることもありますので、注意が必要です。
⑧海山での事故・ケガ・遭難
これは海外渡航時に限ったリスクではありませんが、休暇や休日などを利用して、アウトドアで観光やスポーツを楽しむ機会があるでしょう。その際にも、次のようなリスクがあることに留意してください。
・山岳事故(登山・トレッキング等での落石・滑落・遭難・雪崩・低体温 など)
・水難事故(海・川・プール等での溺死、ウォータースポーツでの事故 など)
・立入禁止区域や危険区域への立ち入りによる転落事故など
・危険な動物や昆虫など(クマ・サメ・ヘビ・サソリ・ハチ・ダニ など)
海外の景勝地や国立公園などでは、日本とは異なり危険な場所(絶壁や滝崖など)であっても、転落防止のための防護柵などが設置されていない箇所が少なくありません。そのような場所での危機管理は自己責任とされており、万が一の事故があっても管理者の責任を問うことができないことを理解しておく必要があります。
また、大自然の中でのアウトドア活動では、危険な野生動物などに遭遇することや、熱帯地域の市街地でも有毒なヘビやサソリなどを見かけることも珍しくありませんので、要注意です。
<参考ウェブサイト>
外務省「海外安全ホームページ:海外における登山、トレッキングに関する注意」
⑨自然災害
これも海外渡航時に限ったリスクではありませんが、自分が渡航する国や地域には、どのような自然災害の可能性があるのかを事前に理解しておく必要があります。
たとえば、自然災害には次のようなものがあります。
・地震 ・津波 ・竜巻 ・洪水 ・台風(ハリケーン、サイクロン) ・高波 ・火山噴火
・高温 ・熱波 ・乾燥 ・山火事 ・豪雪 ・低温
また、最近では、気候変動の影響もあり、台風が大型化したり、集中豪雨の規模が拡大しており、被害が激甚となっているほか、世界各地で大規模な洪水や干ばつの被害が相次いでいます。国によっては、建築物の耐震構造や災害時の救急体制が脆弱な場合もあるので、海外滞在中であっても防災意識を常にもつことが大切です。
⑩損害賠償
日本国内にいる時は、あまり意識することはないと思いますが、海外滞在中には次のような思わぬ事態に遭遇することがあります。
・ホテル等の宿泊施設での客室の什器備品を破損。
・商店で販売されている高額商品や博物館に展示されている美術品などを破損
・レンタル用品の破損や紛失(携帯電話・旅行用品など)
・交通事故時の加害者責任
いずれの場合にも高額な損害賠償金を請求されることになりますので、これらの事案に対応できる損害賠償保険に必ず加入してください。
⑪テロ(→第2項「2)」を参照)
⑫異文化不適応(→第3項「3)」を参照)
⑬タブー(→第4項「4)」を参照)
※本ページ「危機管理の予備知識」について、記述の誤りや加筆すべき事項などありましたら、留学生・国際交流室までご連絡願います。