海外に渡航すると、その渡航先の国や地域で、わたしたちは「外国人」として活動したり、生活したりすることになります。その際に、私たち「外国人」もその国や地域のルールやマナーに従わなければならないと理屈では理解しています。しかし、「外国人」であるがゆえに、現地の人々であれば、絶対にしてはいけない禁忌事項を知らず知らずのうちに、あるいは無意識に犯してしまうことがあり、それによって思わぬトラブルに発展することがあります。
この禁忌事項のことを「タブー」といいますが、この「タブー」は現地の文化や宗教、そして生活習慣などに深く根ざしているため、外国人には分かりにくく、公的な文書やガイドブックなどで説明されているわけでもないので、認識することが難しい問題です。
最近では、宗教的なタブー、たとえば、ムスリム(イスラム教徒)の人々は、豚肉を食さないといったことなどは、日本でも広く知られるようになっていますが、それ以外にも様々なタブーがあります。
一般論になりますが、以下に「外国人」である私たちが、渡航先での不要なトラブルや不測の事態に巻き込まれないために、「外国人」として「してはいけないこと」や「できるだけしない方がよいこと」を列挙します。しかし、同じ国の中でも、地域や宗教、あるいは世代によっても「タブー」は異なりますので、自分が渡航する国や文化のタブーについて予め理解し、現地では十分に配慮してください。国によっては、「外国人」であるという理由で、逆にタブーを犯しても寛容に対処してくれたり、例外的に許容してくれる場合もありますが、それに甘んずることなく、滞在中は外国人として「謙虚に学ぶ」姿勢を持ち続けることが大切です。
①政治的タブー
・国王や王室、特定の政党や政治家(大統領や首相など)を侮辱・批判すること。
→ 国によっては、不敬罪に問われることもある。
・特定の政治思想や支持政党を表明すること。
→ もし政治的な意見や立場を求められたら、「外国人なのでよくわからない」と答えるのも一案。
・選挙期間中に政党のシンボルカラー(赤・黄・緑などの原色のことが多い)を身につけること。
→ その「色」の政党の支持者であると誤解されかねない。
②宗教的タブー
・特定の宗教・宗派、宗教家などを侮辱・批判すること。
・短パンやTシャツなど露出の多い服装で宗教施設(特に礼拝所)に立ち入ること。
→国によって外国人に対しては、規律に寛容な場合もあるが、各宗教を問わず,外国人であっても現地の宗教的な規律や習慣は尊重したい。
・女性が僧侶に近づくことや僧侶の体に触れること。
→ タイなどの上座部仏教圏ではタブーとされる。
・自分は「無宗教(irreligious)」あるいは「無神論者(atheist)」であると答えること。
→ 各宗教の「神」を否定していると受けとめられかねない。
→ 特定の信仰がなければ、「私は仏教徒です」と答えるのも一案。
・左手で、ものの受け渡しを行わない。
→ 仏教やイスラム教では左手は「不浄の手」とされる。
③食文化のタブー
・肉食すること
→ ムスリム(イスラム教徒)は豚肉を食さない。
※豚肉以外は、ハラール(宗教儀式に基づき屠殺された食肉)のみ食用とする。
→ ヒンズー教徒では牛肉を食さない。
→ユダヤ教徒には食に関する厳格なルールがある。
→ 宗教的な理由だけでなく、倫理や環境保護を理由に肉食を忌避する人々もいる。
→多様なベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(完全菜食主義者)の存在や立場を理解すること。
・左手でものを食べない。
→ イスラム教徒は右手で食べ物を口に運ぶ。
④飲酒・喫煙(タバコ)のタブー
・飲酒すること。
→ イスラム教圏では原則、禁酒(ただし、国によって規律に差がある)。
→ 外国人向けのホテルやレストランでは飲酒可能な場合もある。
・泥酔すること
→ 日本では“酔っ払い”に寛容であるが、特に欧米諸国では、“酔っ払い”は人格を疑われるほどの行為と見なされることがある。
・喫煙すること。
→ 特に欧米諸国では喫煙場所は厳しく制限されている。
⑤生活習慣上のタブー
・握手やハグなどの挨拶以外で相手の体に触れること。
・肌を露出すること。
→ 特に仏教圏やイスラム圏。
・人の頭に触れること。
→タイでは、人の頭には「精霊が宿る」とされるため。
⑥撮影(写真やビデオ)のタブー
・公官庁、軍事施設、港湾・空港などの政府の重要施設を撮影すること。
→ カメラやスマホを没収される場合がある。
・寺院やモスクなどの宗教施設を撮影すること。
・人物を無断で撮影すること。
→ 撮影したい場合には、事前に了解を得ること。
<参考:撮影をめぐる金銭トラブル>
海外渡航中のトラブルの中で、撮影をめぐるトラブルはよく起こります。政府施設や宗教施設などで、関係者を名乗る人物が本来は撮影禁止の建物の撮影を許可したり、観光地などで民族衣装を着た人物が気軽に撮影を許可した後に、撮影料を要求してくる場合もあるので要注意です。
<参考ウェブサイト>
※タイへの観光客を対象に旅先でのエチケットについて分かりやすく解説している。